豆々通信   [2003年9月号・読み物]

『びろう葉帽子の下で』(山尾三省 野草社)

びろう葉帽子の下で

秋 その一

青じその実を採り
青じその実を 食べる
それだけのこと それが いのち
青じその実を採り
青じその実を 食べる

秋 その二

花みょうがを採り
花みょうがを刻んで 食べる
サバブシの粉をふりかけ 醤油をかけ
麦飯の上に載せて 食べる
それだけのこと それが いのち
花みょうがを採り
花みょうがを刻んで 食べる

静かさについて


この世でいちばん大切なものは
静かさ である
山に囲まれた小さな畑で
腰がきりきり痛くなるほど鍬を打ち
ときどきその腰を
緑濃い山に向けてぐうんと伸ばす
山の上には
小さな白雲が三つ ゆっくりと流れている
この世でいちばん大切なものは
静かさ である
山は 静かである
畑は 静かである
それで 生まれ故郷の東京を棄てて 百姓をやっている
これはひとつの意見ですけど
この世で いちばん大切なものは
静かさ である
山は 静かである
雲は 静かである
土は 静かである
稼ぎにならないのは 辛いけど
この世で いちばん大切で必要なものは
静かさ である


豆料理のコツ(『クラブ便り』バックナンバーより)

 会員の方からいただいたご質問で、特に他の皆さまの参考になりそうなものを選んでみました。

 @Q:12月号のチリスープの材料に、カイエンペッパー、赤とうがらし(粉)、チリペッパー(粉)が書いてあるのですが、これら全て、赤とうがらしのことで同じものかと思いました。本当は、別の種類なのでしょうか?

 A:私も最初ゆらから送られてきたレシピにカイエンペッパーと出てきたときは、唐辛子でよいのかたずねたことがあります。一番辛い唐辛子がカイエンペッパーで、これは日本の唐辛子で代用できます(ただしカイエンペッパーはごく細かい粉末にされて売られているのが普通です)。チリペッパーはカイエンほど辛くないのでこれは唐辛子では代用しづらい。チリビーンズをつかう時にはチリが必要だと思います。さらに辛さが弱いのがパプリカ。こちらは色々と風味づけに用いられるようです。(千晶)

AQ:豆料理クラブに限らず、最初にタマネギを炒めてから他の材料や調味料を加える料理は多くありますが。12月号の泰然自若シチュウでは、最初にタマネギを炒める段階で塩を加えるのはなぜですか?

 A:玉ねぎと塩のことなのですが、これは私も長年疑問に思っていたことなのですが、昨年山中律子さんの『トルテリーニを食べたくて』という本を読んだときに疑問が解決しました。
 日本の料理指導の中では玉ねぎを油と塩とともに炒めると書かれていることが多いのですが、イタリアで料理を勉強した山中さんの解説だとイタリアでは油たっぷりの中で半ば揚げるようにして玉ねぎを炒めるとのこと。和食の歴史の中で油はあまりつかわれてこず、だから日本人は割合油にとんちゃくしないので(上質の油を台所に用意してないので)、質の悪い油をたくさんつかうと料理がおいしくなくなる。そこで少ない油で玉ねぎを炒めることになるのですがそのためには塩を入れて玉ねぎから水分を出さなければ玉ねぎが鍋にこびりついてしまうことになります。逆に言うとイタリアのように上質のオリーブオイルを常に台所に用意しておく伝統があれば、油をたくさん入れてもくどくならず、むしろ香りとこくが出てだしの一部となるので、オリーブオイルが持ち味を十分発揮できるよう、たっぷりつかって玉ねぎを炒めるのが普通であるようです。私も肉をつかわないようになってオリーブオイルをつかう分量が多くなりました。それから質の悪い油の場合、生ではとても食べられないのでフライパンに油をひいてよく熱して玉ねぎを炒め始めますが、上質のオリーブオイルで料理する場合は油を熱さず冷たい状態のところに玉ねぎを入れて炒め始めます(上質のオリーブオイルはジュースのように生が一番おいしい)。私はこれを知って、玉ねぎを炒めるのが難なく楽しくなりました。
 ところでところで、泰然自若シチュウの場合は、玉ねぎの分量に比してオリーブオイルが少ないので、塩で水分を出して5分炒める間にこげつかないようにしているのだと思います。このシチュウの場合オリーブオイルでこくを出すというよりスパイスで風味を出して仕上げていましたよね。スパイスが苦手な方はスパイスを減らされてその分オリーブオイルを増やされてもよいかもしれません。(千晶)

BQ:スパイスの使い方があんまり良く分かりません。今度、初心者向けに、スパイスの効果的な使用法を教えて下さい。

 A:初めてスパイス中心のレシピを見るとえっ、何か大変そう、とかいっぱいあって覚え切れないという気持ちが起こるかもしれません。私の場合、10歳くらいから自分でハーブを育てたり、ポプリを作っていたせいか、その延長で香りに引き込まれてしまい、一つづつ種類が増えていくのが楽しくて仕方ありませんでした。
 千晶さんも書かれていたとおり、インドの豆料理に必要最低限のスパイスはクミン、コリアンダー、そしてターメリックとチリ4つです。これに慣れてしまうと、バリエーションとして、フェヌグリークやマスタードシード、アジョワン、ヒングなどが欲しくなってくるかと思います。そしてこのカタカナのやっかいな名前を覚えるより、より身近にちょこまか使ってみるためにおすすめの方法があります。
 用意するもの:クッキーの空き缶(中に仕切りが入ったもの)
 在日のインド人のうちで始めて見たのですが、日々使う少量のスパイスはすべてこの細かな仕切りのある空き缶に全部収めてしまうのです。こうすると、いくつものビンを出し入れする手間が省けるばかりか、スパイス料理全般にいえるタイミング(順番を見極めつつ、スパイスを焦がさないぎりぎりまで油でいためるなど)を逃しません。何かしけっちゃいそう、と思いましたが、スパイスは結構長持ちするので案外平気。なくなれば大きなビンに詰まったスパイスをまた出してきます。ネパール、インドの家庭では金属やプラスチックでできた丸い缶に小さな丸缶がいくつも詰まった物を使います。
 こうして入れとけば思い立ったときに「今日はしょうゆ味の変わりにコリアンダーをいれてみようかな」という気分になれる?!少量から始めてよく炒め、よく煮ることがおいしさの秘訣です。油で炒めるスパイス(クミンなど)はしっかり焦げる手前まで(はじけるまで)油で通さないと単なる苦味になってしまいます。また調理半ばで加えるコリアンダー、ターメリック、チリなどは味をなじませるためにじっくり煮込まないとこれまた粉っぽくなってしまいます(といえるほど私は失敗しました)。普通の日本の野菜炒めが10分ほどで仕上がるとしたら、インド料理では2−30分は蒸し煮しています。しかもある程度まで結構な強火で(そのせいか油も大目)。それほどスパイスがなじむのに時間がかかるのかもしれません。このタイミングは何度も作り続けることで身につくかと思います。スパイスの組み合わせも毎日変えてみても楽しいです。
 そして使い続けるうちに気がつかれるかと思うのですがカルダモン、シナモン、ナツメグなどはお菓子作りの他には肉料理の臭み消しに使われる程度であんまり必要ではないのです。(ひろ)


シリーズ・インド豆話 タマリンド
(佐藤浩子)

タマリンド

 「あれっ,ない!」楽しみにしていたタマリンド並木がなくなっている。プーナからコラプールへ向かうハイウェイはバンガロール〜ムンバイ間にあり,物資を運ぶ経済的に重要な区間とあって拡張工事の真っ最中。かつてのでこぼこ道はいくつも車線を広げ,日本の高速道路のようにぴかぴかに舗装されつつある。
 普通ずるずる気根を伸ばしたバニヤン樹やタマリンドの大木が並ぶお陰で長距離の街道沿いは涼しい。タマリンドの木の下には魔物がすむというほど薄暗く冷んやりしている。この下で寝るのは不吉で悪夢を見るからと家のそばには植えない。人の指のような莢と豆の間に干し柿のような質感の果肉が詰まっている。この果肉,梅干そっくりに酸っぱく,タイのトムヤムクンの辛い中に混じる酸味に欠かせない。先月触れた豆スープサンバルにも。花や若い葉も食べられ,種子は粉にするとチャパティができる。小麦粉が買えない人には貴重だ。この粉、繊維や製本の糊付けにも使う。セメントに混ぜれば強力に。
 一本も木のない真夏の日差し照りつける中,バスは8時間走り続けた。途中一度だけ休憩に止まった。そこはサービスエリアを模したようなぴかぴかトイレがずらりと並び,キオスク風の何でも屋やレストランのコーナーがある。どれも値段が相当に高い。今までならトイレもない掘っ立て小屋の汚い食堂しかなかった。客をぼってるというより提供したサービスに応じた料金を取りますという意識の変化を感じた。
 再びバスが走り出すと対向車線にはコンピューター会社の大型トラックがぼんぼん通り過ぎる。…牛車は通れなくなったのか?ぼろい茶屋が消えた代わりに欧米式のモーテルやガソリンスタンド。ガソリン価格は日本と変わらず,収入と比較すれば高価なはずだが、バイクは増える一方。
 コラプールに着き、出迎えたミリンとヤダフ先生に開口一番「タマリンドはどこ行っちゃったの?!」と訴えた。「大丈夫、旧街道にはまだ残ってる。今度採集のときに見られるよ。」    …とはいうものの,先生は飛行機で学会へ飛び立ち,学生たちは毎日パソコン画面とにらめっこ。本も買えなかった彼らは奨学金で皆スクーターを手に入れた。道が舗装され,ヘルメットなし2人乗りは昔のまま,猛スピードで走る。滞在中ミリンが交通事故にあった。毎日森を歩いていた彼も採集の時間がなく,たぷたぷに。ついぞ採集の日はやってこなかった。
 夕方新しいスーパーに連れてってもらった。お金持ちや若い世代の家族連れで賑わう店内はきれいなパッキングの食料がぎっしり並ぶ。家で作るのが当たり前だった様々なガラムマサラ、漬物、そしてその辺で拾えば済むタマリンドまでがんがん買う人も。古くて着色されたスパイスを平気で買うのには信じられない。変化する台所事情はどこもおなじか。
 結局タマリンドに会えたのは南インドをぐるっと回ったオーロヴィル。炎天下自転車をこいでいたらもしもしと声をかけてくるおじいさん。近くにあったタマリンドの木陰に入る。北のバラナシから来たというのでヒンディ語で話すと「実は私,ここでヒンディ語とサンスクリット語を教えてるのです」えっ、めちゃくちゃなヒンディで話してしまった。「はっはっ,なかなかですよ」久々にのんびりした風貌ながらきらっと目の輝いたインドの哲人に会った。
 その後子供が足を怪我し往生してると西洋人のおばあさんが飛んできて車を呼び助けてくれた。翌日名前も聞かず後悔してたら偶然向こうから白い水しぶきを顔にうけながら大きなポリバケツを抱えスクーターに乗ったその人が走ってきた。タマリンドの下でお礼を言い,バケツを覗くと牛乳が。「牧場をなさっているんですか」と尋ねると「これは野良犬たちに配っているの」…ニュージーランドから移り住んだアンは毎日野良犬たちに餌をやり,怪我の手当てをして回っている。彼女からソリチュードファームを聞いた。
 その後クリシュナと植物園へ行く途中,またこの2人に再会した。またあの木の下で!「彼らはオーロヴィルの2大グレートパーソン」とクリシュナ。彼は私が短い時間に2人に会い,特にアンが助け農場を教えてくれたこと,怪我のため滞在が伸び粘土団子を教わるチャンスがきたことにびっくりしていた。
 タマリンドがつないでくれた縁に感謝する一方,貴重な情報交換できる木陰がこれ以上なくならないよう祈るばかりだ。魔物が棲めないインドでは悠久の時間も失われてしまう。

[HOME] [豆々通信 INDEX]