豆々通信    [2002年12月号・読み物]


豆の煮える間に 台所からの贈りもの(ゆら)

 寒くどこへ行っても慌ただしく何か気ぜわしい季節、そんな暮らしぶりを見てとったかのような心のこもったちょっとした贈りものにはほっとするものです。何を贈ったら喜んでもらえるだろうと考えるのも楽しみのうちですが、ここでは台所からのささやかな手づくりギフトのアイデアをご紹介します。

 ハーブ酢
 酢を沸点より低めまで温め、酢1リットルに対し大さじ3の生ハーブ(タラゴン、オレガノ、セージ、タイムなど)を入れます。ふたつきのびんに移し冷暗所に2−3週間ねかせ、ハーブをこし除きます。温野菜、サラダをまずオリーブ油や亜麻仁油であえてからこのハーブ酢・塩・こしょうと合わせるとささやかなドレッシングになります。または『豆々通信』10月号のレシピ〈B〉〈C〉〈E〉や11月号の〈C〉にそのまま使います。

 香りつきバター
 バターを室温に置いてやわらかくし、1/2箱(約110g)に対し@にんにく1−2片のみじん切りや、Aシナモンやオールスパイスなど小さじ1を混ぜこみ冷蔵庫に保存します。他にはBアーモンドなどのナッツを焙ってから(フライパンで空炒りまたはオーブント−スターで数分)挽いたもの(コーヒー挽きやすり鉢を使う)1/4-1/2カップとコニャックやラムひとふりの組み合わせや、Cオレンジの皮のみじん切りとしぼり汁大さじ2、Dはちみつ大さじ2とレモンの皮のみじん切りとしぼり汁1個分をていねいに混ぜあわせるのも楽しい。毎日のトーストやホットケーキに新しみが出ます。

 特製ミックス
 豆料理クラブに今まで紹介された豆料理やお菓子の中でお気に入りはどれでしょう?豆とハーブ・スパイス、あるいは粉とベーキングパウダー・砂糖・塩・レモンの皮のみじん切り(ラッピングの前に乾燥させる)など材料のうちの乾物を計量し、見た目にも楽しくラッピングし(ガラスびんや縦長のビニール袋に層をつくるなど)レシピを添えたのも気持ちの和む贈りもの。

 オリジナル調味料
 10月号の天国の香り特製調味料レシピ〈I〉を覚えていらっしゃいますか?10月号では焼きじゃがいもの香りつけに使われていましたが(ソルト・シェイカー)に詰めてプレゼントすると、テーブルに置いて手軽に使ってもらえます。ほかにも乾燥ハーブ(パセリ・マジョラム・タイムなど)を細かくすったものと塩を合わせたり、セロリシードと塩を追わせるなど、オリジナル調味料の可能性は無限大。

 ハーブ鉢植え
 陽あたりのよい窓辺があればハーブは室内で育てられます。チャイヴ・タイム・マジョラム・タラゴン・パセリ・バジル・ローズマリーなどがおすすめ。大地に根をはったものほどは伸びませんが、折々香りを楽しむには十分。鉢植えとしても目にも鼻にもがぜん快い贈りものです。

 おやつ
 豆料理クラブでご紹介するお菓子を多めに作っておすそわけすれば、今ごろあのお宅でも同じおやつかな、とこちらも心楽しいもの。


スパイスあれこれ(佐藤浩子)

オレガノ
トマト・チーズ・豆とよく合うオレガノはイタリア・メキシコ料理で大活躍。
お茶にすると、咳や消化不良・げっぷに効果があります。歯痛止めに葉っぱを噛んだり、お風呂に入れても。
一度畑にまくと丈夫で毎年株分けで増やせます。花は小さいけれど花序が高く伸びるので、切り花やドライフラワーに。

ハーブオイル・ハーブビネガー

焼き魚・マリネ・ドレッシングの風味が一層深まります。

1.生の葉がある場合はにんにくや月桂樹、ローズマリー・タイムと一緒に粗く刻み、ハーブが隠れるまで油や酢をビンに注ぐ。
2.オイルはオリーブ油、酢はワイン酢・リンゴ酢・醸造酢で。日の当たるところに置いて(オリーブ油は暗所に)毎日ゆすり、2週間ほどで香りが移るので漉してビンに移す。
3.目印に新しい枝をビンに加える。


チリ
トマトと共に原産地の中・南米からコロンブスの到着によって世界中に広まったチリは現在熱帯全土で200種類以上も品種があるそうです。それ以前はカレーをはじめ、熱帯アジアの辛い食べ物がコショウのみで辛みを出していたといい、想像もできません。

月桂樹
イスラエル原産で聖書に登場する月桂樹は古代ギリシャ時代から勝利の栄冠として、また疫病・虫除けに使われました。米びつや粉の袋に葉を入れておくことで防虫効果があります。
オレガノもそうですが、剪定した枝をとっておき、燻製のいぶし材やバーベキューの薪に加えると香りが楽しめます。
春先に枝を挿し木するとよく根づき、増やせます。

キッチン・リース

ハーブとスパイスで作った台所に飾るリースは料理の際にここからとって使え便利です。

.月桂樹の枝をリースの形に整える。枝がなければブドウやアケビのつるで。
.@にホールのチリや八角・シナモンを木綿糸で縫いとめる。
.同様にタイムやローズマリーの枝、セージやオレガノ・月桂樹の葉でブーケガルニを作り、に縫いとめる。

ブーケガルニ:スープや煮込み料理に入れるハーブの束。好みに合わせて上のハーブを料理1回分(例月桂樹の葉1枚にタイム・ローズマリー一枝ずつ)ごとに糸で縛る。枝の代りに大きな木のスプーンや幅のあるリボンを土台にしても。葉や軽いものはご飯粒でくっつけてみては?


シリーズ・インド豆話 バウヒニア(続)(佐藤浩子)

 カルロス・カスタネダ率いる呪術師集団の一人、フロリンダ・ドナー・グラフ著「魔女の夢」で著者が魔女と別れの際、蝶の形をした葉を受け取り暗い家の中に放る場面がある。
 私はこの葉が先月紹介したバウヒニア属ではと踏んでいる。というのはこの仲間には深い切れ込みのせいで葉が蝶やハート型に見えるユニークな特徴があるのだ。
 ネパールとインドをぐるりと周り、東のダージリンとは反対のインド西端、ボンベイから北に電車で3時間、バウナー達の住むグジャラート州バルサードで四ヶ月後学生や先生と再会した。ボンベイに近いせいか、表向きはかなり洗練された町並み。豪華西洋風お屋敷に住むフェイクファージャケットにスパッツのスーパーモデルのナオミそっくりさんはミュージシャンの恋人とファーストフード店で待ち合わせ。大都市でしかお目にかかれないタイプ。ミニスカート姿のアニーは同潤会アパートを思い起こす団地に住む4人家族。旧市街にはポルトガル植民地時代の古いコロニアル形式の邸宅にはお父さんがアーユルヴェーダの薬剤師でジャイナ教のブリジェーシュ。彼はボンベイのファッションショーで伝統的な素材を用い、現代風にアレンジしたデザインの服で見事優勝した。普段も他の男の子達がダフ屋のようなダブダブスラックスにレーヨンシャツなのに対し、彼は品のいい刺繍入りのクルタにブルージーンズ、ラクダの皮靴を気取ってはいている(*クルタや革靴は袴や下駄と同様日常生活ですたれている)。すらりと背の高いアフリカ人のような(と周りがささやく)彼の相棒もサングラスに(外国人のお土産的)地元のミラーワークショールという、不思議ないでたち。一方彼のお兄さんは何とスーツで大学の医学部に通う。住む家によって学生の服装や考え方も全く違う点に気づかされたのはこの地が始めてだった。大多数のインドの学生はゆったりしたパンジャビドレスと呼ばれるワンピースの下にだぶだぶズボンなのに。こんな様々なスタイルがあるのはボンベイに近いせいか?
 最後にバウナーの家を訪ねた。バスが来ないので彼女に薦められスクーターに4人乗りする。インドでは原付バイクに家族5人が仲良く乗るのも普通。とはいえ、でこぼこの砂利道を1時間以上乗り続けるのは冷や冷や物だ。
 到着すると村中の小さな子供たちが群がり、始めてみる客にどこまでもついてくる。一族みんなが住むインド版長屋は仕切りの少ない広々とした造りで、中庭に共通の炊事場とトイレがある。バウナーと夕飯作りの手伝いをしている間もいろんな人が覗きにやってきた。バウナーの弟やお父さんが戻ってくると全員で夕食に。ヒヨコ豆のカレーとチャパティ、バウヒニアの若葉の炒め物など、シンプルだが暖かいおもてなしに外からの視線も気にならなくなる。
 ここに来るまでの間、あちこちでバウヒニアを見つけ、バウナーを思い出したことを家族に話した。花が大きくて美しいのみならず、役に立つ植物なので好んで植えられるらしい。南部では食堂のお持ち帰りの包みにアカシアの刺で縫いとめられたバウヒニアの葉が使われていた。初めは仰天したものの、紙コップや紙袋だってもとは何かの植物繊維なのだから加工の手間のないこっちの方がいい。中身は緑豆粉で作った揚げ物や蒸パンに引き割ムング豆の煮込みと豆尽くし。食べ終わったら包みを外にポイすれば牛が食べていく。ビディという葉巻たばこの巻き葉にかかせないし、樹皮はアーユルヴェーダで薬用に使う。染料にしたり、貧しい人が豆を粉にして小麦の代りにチャパティを作ると先生をしているバウナーのお父さんやお母さんから聞いた。
 食後、村のお寺に出かけお坊さんの講話を聞きに行く。普通ヒンドゥの寺は地方ほど異教徒の立ち入りを拒むのだが、全然おかまいなし。穏やかに、でも熱心に聞き入る村人達に混じって過ごしたひとときは言葉が分からなくても忘れがたい。話が終わったときの和やかな空気の中に村人たちの意識がまとまった感じがした。説教をした坊さんの写真をダージリンでバウナーが別れ際に大事にしてねとくれたのを思い出した。その時は誰なのかわからず、バウナーのお父さんと思い込んでいた。
 翌日、バウナーと弟、そしてちびちゃんたちが畑を案内してくれた。途中青くて堅いマンゴーの実を拾って歩く。昨日の夕飯に漬物で出され、おいしかった。畑の作物を見終わり、一休みに彼らがわらで作った秘密基地のような掘っ建て小屋へ案内された。姉弟は大の仲良しで、普段宿題は2人ここでするとか。学名が蝶型の葉っぱに対して双子の植物学者バウヒニア兄弟をなぞらえたエピソードをふと思い出した。
 バルサードへ戻るバスを待つ間、バウナーがメヘンディという、日本でも髪染めに使うヘナ粉で手の平に細かい模様を描いてくれた。結婚式で花嫁の手足にメヘンディを施すのだが、このあたりでは日常にも化粧の一部として習慣が残っている。
 ところが町で都会的暮しを営むジーンズやスカートの子達に見つかって一悶着。私の手を一瞥するや苦々しく「そんな汚らしい物、早く取ってしまいなさいよ」と水道に連れだす。メヘンディは定着するまで丸1日ヘナ粉がくっついたまま手が使えないのだ。定着すれば洗っても落ちずに半月は赤い模様が楽しめる。彼女たちは自分達の古臭い伝統よりも日本のファッションや恋愛話について興味津々だが私としては日本の女子高生のようで退屈この上ない。すっかりアメリカナイズされた国から出てきた旅行者としてインドの文化についてあれこれ言う資格は全くない。が、一度失ったものはそう簡単に取り戻せないし、それがいかに大きかったことを教えてくれたのがインドだったことを思うと、どこの国でも起きている西洋化が恐くてならない。
 その後バウナーとは何度も手紙のやり取りをし、彼女の結婚写真やクリスマスカードをもらった。しかしおととし起きたグジャラートの大地震以来彼女から連絡はない。

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