豆々通信 [2002年10月号・読み物]

スパイスあれこれ(佐藤浩子)

クミンとコリアンダー

 あの中華やタイ・メキシコ料理などで上にのっかってる、カメムシのようなすごいにおいで知られるコリアンダー(香菜)の葉っぱ、絶対食べないもんといってる方、コリアンダーの実がカレーに必ず入っているのをご存知ですか?クミンと共にセリ科の植物で種子を粒のまま、あるいは炒ってから粉にしてカレーをはじめ、チーズやお菓子に使います。インドの伝統医学アーユルヴェーダではおいしい豆料理を作るときにこれらをちょっと加えることで消化を助けたり、ガスがおなかに溜まらないように駆風効果を薦めています。クミンには生姜や胡椒と同様に体を暖め、コリアンダーにはやや体を冷やす作用があります。
 複雑なスパイスの組み合わせを想像するカレーですが、実はこの2つだけでおいしくできてしまうので紹介します。

タルカリ(ネパールの野菜炒め)4人分
玉ねぎ 半個分(みじん切り)
トマト 半個分(ざく切り)
ジャガイモか里芋 中3−4個(皮をむき2cm角にカット)
大根やカリフラワー、キャベツなど好みの野菜 カップ3−4(拍子切りや適当な大きさに切る)
ニンニク1片&生姜親指大(みじん切りにして和えておく)
クミンパウダー  小匙半分弱
コリアンダー  小匙1杯
ターメリック(ウコン) 小匙1/4
唐辛子 好みで適量
塩  小匙1
=省略可

1.強火で油を片手鍋かフライパンに加え、普通のカレーを作るように玉ねぎを初めにさっと、大根など火の通りにくい物から炒める。
2.ある程度火が通ったらニンニクと生姜を加え香りがしてきたらトマト・スパイス・塩を加えよくからめるように炒める。
3.カップ半分くらいの水を加え蓋をし、柔らかくなるまで煮込む(最初強火でごぼごぼと段々弱めて)。

 えっ、これだけ?と驚かれるかもしれませんがほんの少しのスパイスでいつもの野菜炒めがおいしく変身します。ちょっとだけ水を増やしたり小松菜や白菜をおしまいの方に加えるとスープっぽく、完全に蒸し切ると(蓋をしないと火が通る前にこげやすいので蓋をしてときどきかき混ぜましょう)インドのサブジ風になります。季節によってネパールではタケノコや菜の花・きのこ・うりをいれたり、お好みで少し肉やゆで卵も入れます。さらにしらたきや牛肉を加えるとチベット風、でも日本人にはあれ、すき焼き?みたいです。
 スパイス加える順番とかめちゃくちゃじゃない、というインドのカレーに詳しい方も大丈夫ですので一度このままやってみて下さい。インドとは全然違う、さっぱりしたより日本人に食べやすい仕上がりです。小さい子も食べるときは唐辛子を除き、子供の分だけ最後に蜂蜜やジャムをひとたらししましょう(保育園で習いました)。次回からちょとずつ減らせば普通のカレーもなれていくと思います。

バジル

 イタリア料理でトマトと相性抜群のバジルですが、東南アジアが原産の1年草です。タイではバジルの葉を野菜炒めの最後にいれたり、インドではホーリーバジルと呼ばれる種を必ずヒンドゥーの寺院や庭先に植え、庭を案内してくれるときは真っ先に紹介するほど大事にされています。
 ヨーロッパでは香りが気持ちを元気に、頭をすっきりさせてくれ、頭痛にも効果があるため、布袋に入れて持ちあるいたり、香水に使いました。何とほれ薬としても効果があるとか。
 栽培も簡単で、はる遅霜が終わってから種を蒔き、日当たりのよい場所でよく育ちます。葉の採りたいうちは花芽を摘みます。寒さに弱いので、20度以下になったらさっさと種を来年用に取ります。霜がおりたらさようなら。トマトの間に植えておくとアブラムシが嫌がります。たくさん葉がとれたら、にんにく・オリーブオイルと一緒にミキサーにかけてペーストを作ると冷蔵庫で保存がききます。野菜炒めにするとそれほど香りがきつくありません。卵や魚にも合います。生の枝を摘んで部屋に飾ると他のハーブと比べ、葉をもまなくてもさわやかな香りが広がります。

レモン

 現在カリフォルニアやスペインのシシリーでの栽培が有名なレモンは意外にもヒマラヤ東部アッサム地方原産で、ヒマラヤの山岳地方では乾期になると野生はもとよりいろいろな大きさのレモンがたわわに実り、漬物を始め、毎日の食卓に欠かせません。小さく切って30%のアルコールに漬けて暗い場所で1週間ほどおくとレモンパックができ、コットンに含ませて顔につけます。皮を捨てずにとっておいてお風呂にいれると赤ちゃんの湿疹が和らぎます。沸騰させた牛乳にレモンの絞り汁を加え(牛乳1Lあたりレモン1個)、布巾で漉すと家でカッテージチーズができます。

シリーズ・インド豆話 草原で蛇にであったら(佐藤浩子)

 「いいこと、ギートゥ、キャンパスの草むらに入っちゃだめよ。必ずアスファルトの敷いた道路をあるいてちょうだい。」朝ご飯に豆と押し飯を蒸し、スパイスで味付けしたキッチャリを食べながらヤダフ夫人が告げた。彼女はインドでお世話になった植物学部のヤダフ先生の奥さんである。私は大学内にある先生の寄宿舎に彼らの御好意で滞在していた。
  「どうして?マダム、花をちょっとばかり採集してるだけだけど・・・身近にこんなに綺麗な花がわんさと咲いている場所なんて日本にはそうないのよ。それに私にとってはほとんど初めてお目にかかる植物なんだから。」
 ここコラプールはダージリンやコダイカナルといったインドの有名な観光地・避暑地なんかよりずっと綺麗で静かな本当に美しい場所だった。大学の敷地は800ヘクタールもあるなだらかな丘陵地で、校舎や教員家族の住宅がぽつぽつと散らばり、草原の間を縫うようにくねくねと道がはしっていた。草原は雨季が終わると一斉にあたり一面花畑となり、近くの農家の水牛やロバ、馬が放牧される。日本で言えばさしずめ霧が峰や美ヶ原といったところか。
 毎日朝早くから夜遅くまで先生のうちに(いるジャパニを見に)訪ねてくる多くの人々との茶飲み話に飽きてきたのでカメラと野冊を持って広い学内を一人でうろつき始めた。が、外に出ても好奇心旺盛なよその学部の先生や奥様・学生連中、オートリキシャの運転手に捕まってまたあれこれと(どこからきたんだ、何してんだ等など)尋ねられ、開放されるまでに時間を要した。いつでも似通った集団に身を置きながら、表面的なことしか言葉に交わさない孤独な日本と正反対で、どこまで一人でいようともインド人は必ず土足で他人の内面にひょっと入り込んでくるのだ。この中の誰かがきっと彼女に耳打ちしたに違いない。
 「あのね、ギートゥ、雨季が終わると草むらにコブラがでるの。見えずに間違えて踏んだら大騒ぎよ。」そういえば乾季には学生たちとからからにひびの入った大地をどこまでも歩き、大木に咲く見事な花を採って回った。あのときは何も言われなかったのだ。やれやれといった様子でヤダフ夫人がキッチャリのおかわりを勧める。彼女はいつもとんだことをしでかす私のことを我が子のように心配してくれているのだが、ありがたいときもあればそっとしておいてくれたらと思うこともままある。雨上がりの森や河原で蛇に出くわすことぐらい私だって日本で知っているけれど・・・
 「せめて道路から手の届く草だけ採集して、遠くのはうちの学生に頼みなさい、ね。」ヤダフ夫人は食器を片づけ、洗濯を始めた。インドではまだまだ珍しい電気洗濯機で。
長かった雨季が終わり、まだ空が厚い雲に覆われ日差しの弱く涼しい時期になるとあたり一面はカラフルなお花畑に変貌する。その中を、チャッパルを履いてすたすたと散歩することのなんと気持ちのよいことか。
 その日は採集に出かけなかったので研究室での作業を済ませ、再び学内の植物を取りに外へ出た。そうだ、今日こそは豆科の草を見つかるだけ全部取ろうと決めた。インドでは相当な数の豆科植物があるといわれ、この大学内でも学生たちに言わせると80種は下らないそうだ。日本でも見られるコマツナギやハギの仲間や、今まで見たこともなかった樹木まである。
1つずつ豆の写真を撮り、標本用に採集してまわっているとカワラケツメイによく似た花の形をした豆の花がたくさん咲いているのを見つけた。薄汚れた葉の間から細長いさやがぴょんぴょん伸びている。エビスグサとハブソウであったが、実物をみたのはここでが初めてで驚いた。これらは熱帯アメリカ原産で江戸時代に日本に入り、薬用に栽培され、お茶にして飲まれている。カワラケツメイから作られた津和野のざら茶は御存知の方も多いはずだ。エビスグサはハブソウから作られるハブ茶の代用にされている。
 残念なことにスーパーでしか野菜を見る機会のないようなところで育った私はインドやネパールで多くの栽培植物の生きた姿に初めて出会った。ゴマやソラマメの綺麗な桃色の花、地面に潜り込む落花生、煎ると銀杏に似た味のする、若いもろこしの実。加工品しか知らないカシューナッツやカカオの木。ジャスミンそっくりの香りのするコーヒーの花。大きな葉の影で地面すれすれに実を結ぶカルダモン。タピオカと一緒にこっそり栽培される麻・・・
 こういった植物をここでは豆を中心にお伝えしようと思う。中にはお皿に使われるものや、シャンプー、石鹸、アクセサリーになる豆もある。食べるだけではなく、生活に深く結びついた様々な豆がその土地でどんな風に使われているのか紹介したい。
 沖縄では昔、ハブに噛まれたときに葉をもんで出た汁で傷を治療したことからハブソウと名付けたそうだが、草むらで本物のハブではなくハブソウに出会えてよかったよかった。果たしてコラプールあたりでも蛇に噛まれたらハブソウのお世話になるのか、今度ヤダフ夫人に聞いてみよう。またあきれられるに違いないが・・・

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